現象の奥へ

『魔女がいっぱい 』──ゼメキスの味わい方(★★★★★)

『魔女がいっぱい』(ロバート・ゼメキス監督、2020年、原題『THE WITCHES』)

(2020/12/7@ユナイテッドシネマ、キャナルシティ13(博多))

  USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で、デロリアン号に乗ってしまった身としては、ゼメキスと聞けば、とりあえず駆けつけねばなるまい。ちょっと前に読んだ本(書名失念)によれば、この『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のアトラクションは、映画以上の技術と構想でできていたようだ。つまり、時空を超えるというのを、「現実に」(笑)どう作るか。そして、ゼメキス映画の醍醐味が実はそのあたりにあって、そこを見過ごしてしまうと、かなりつまらない、何を言っているのかわからない映画となる。
 本編などまさにそんな感じで、親を亡くして落ち込んでいる少年が祖母に引き取られて、祖母が、お菓子とか、踊りとか歌(スペンサーが演じる)とか、ペット(お祖母さんがペットショップで買ってきた白ねずみ)などで慰めてくれるうち、しだいに「祖母の世界」(そう、これは祖母の世界なのだ。その世界に魔女軍団が跋扈している)に引き込まれ、哀しみから立ち直っていく。そして、人生の意味も知っていく。『チャーリーとチョコレート工場』と同じ原作者、ロアルド・ダールの作品である。今回は、魔女たちが出てきて「大活躍」(?)。なかでも、大魔女と呼ばれる魔女のボス 対 お祖母ちゃん(+少年)の戦いが、物語の骨子となる。見どころは、かの美貌のアン・ハサウェイの大魔女の口裂け女ぶり、お祖母ちゃんのオクタビア・スペンサーのおとぼけエンターテナーぶり、ホテルのマネージャー、スタンリー・トゥッチの、いかにもありそう慇懃無礼ぶりの、おとな三つ巴と、少年ともうひとりの食いしん坊少年、それに、白いねずみ(もとは人間の少女だった)の「ねずみぶり」。というのも、ねずみの動きが『鬼滅の刃』のアニメよりキメがこまかくて、かなりリアルなのである。それら見どころを除いたら、まー、地味なお子ちゃま向きの映画で、つまらんという人も多いでしょう。しかし、『鬼滅』もお子ちゃま向きに変わりなく、さあ、どっちのお子ちゃま向きを、あなたなら選びますか? てな映画です。なお、少年はアフリカ系で、祖母のスペンサーもアフリカ系で、今後、こんな家族がごく普通のアメリカの家族となるんだろうなという感じもする。
 そして、ゼメキスといえば、スピード感である。エンディングまで数分のたたみかけるようなスピード感は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を思い出されて快感である。映画のお楽しみのひとつである。