現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『オオカミは嘘をつく』──イスラエル人がイスラエルを告発した映画(★★★★★)

『オオカミは嘘をつく』(アハロン・ケシャレス ナヴォット・パプシャド監督、2013年、原題『BIG BAD WOLVES』) 2015年1月29日 1時00分

タランティーノ絶賛!という宣伝文句だが、それもよくわかる。「タラちゃん絶賛!」がなかったら、スルーされていた映画だろう。なんせイスラエル映画である。イスラエルといえば、やはりモサド、秘密警察、拷問……といったイメージがあるが、そのとおり(笑〉、街も人々もうそ寒い。かわいく美しい少女が被害者の陰惨きわまりない事件が起きる。すぐに容疑者が刑事たちによって暴行される。警察も上の方は、公式には、やりすぎるなと注意する。しかし、刑事は暴走する──。そこへ、被害者の父親がからんでくる。この男が、よく被害者の家族が、「犯人を殺してやりたい!」と言うが、それとはまったく違う意味でイカれた男である。容疑者を勝手にリンチするという、ハリウッド映画とも趣をことにする(笑)。暴力の味わいがちがう。ハリウッド映画のような、カタルシスとは無縁である。ヒーローも、いい男もいない。常識もない。ただただ観客はこの、イスラエル風暴力を「見させられる」だけ。とにかく陰惨、とにかくうそさむい、なのに、どこか笑える。ここが重要。結局、登場人物はかぎられ、舞台劇のようになるが、映画でなければあり得ないポイントはたくさん押さえられている。
 最後のオチがまた、さもありなんのイスラエル的悪夢。この悪夢は今もおそらく続行中であろう。なんとも「ゆかいな惨劇」を作り上げ、ひそかにイスラエル政府を告発していると見た。だからこそ、ただひとり登場するアラブ人がかっこよく、いい男で、この人物のみが「正常」であると思わせられる(という映画)。はあ、わたくし、タラちゃんに私淑しているものですから(笑)。あまりの陰惨シーンも、やりすぎて、作り物っぽく見える。そういう「救い」を残しているのが、タランティーノ好みの暴力なんです。