現象の奥へ

『スタートアップ! 』──ドンソクにはハマた〜(★★★★★)

『スタートアップ!』(チェ・ジョンヨル監督、2019年、原題『START-UP』)

(2020/11/21@KBCシネマ福岡)

 今日(土曜日)も、ほぼ満席に近い感じ。やはり、マ・ドンソク目当てなのだろうか。それほど若い人々でもなかったから。この俳優、『悪人伝』で初めてお目にかかって、こんな、あくどい、濃すぎる顔は見たことない(笑)と思った。まんま「悪人伝」であったが、その彼が、『スタートアップ』という新作では、こともあろうに、「お茶目さん」を演じるというので、何を差しおいても初日にかけつけた。
 ドンソクは、中華料理店(韓国の〜?(笑))のコックというか、コック長。どーしようもない不良少年が店員として採用されて、その少年を鍛えるのだが、そのストーリーにそって、クセのある登場人物たちの事情が見えてくる。眼を開けたまま眠ったり、おかっぱアタマだったり、どこか不気味なコック長(といってもほかのコックは、見習い以外見当たらない)だが、やがて、彼の「いわく」が判明する。どのみち、尋常でない「強さ」の男は、政府筋か、ヤクザ筋か。彼は後者の用心棒のような地位に「あった」男のようであった。やがて「組」から迎えがくる。一方、不良少年のシングルマザーは、お金を借りて小さな店(トースト屋。韓国で流行っているのか?)を開く。息子とは喧嘩別れしたまま。
 不良少年の親友も、恵まれない境遇で、早く稼ごうと、「取り立て屋」の見習いになり、その不良少年の母の店に、取り立てに行かされる。借金の法外な利子の取り立てである。
 こうした筋書きは、一時日本映画でもあったのかもしれないが、今どきの韓国映画は、考え方の底にどこか清潔なところがあり、そうでありながら、日本映画がハマりがちな型にはまった陰惨な紋切り型が避けられている。ドンソクのキャラも、日本のヤクザ映画の誰それというより、この男以外にあり得ないユニークなキャラクターになっている。そこが物語を追うのに一筋縄にはいかないのであるが、思えば、この一筋縄ではいかない面倒さが、作品の価値ともなっている。エンディングの、実写が漫画化し役者を紹介するシーンは、よくある手ではあるものの、「これはお芝居でした」と明かしているようでホッとして楽しい。