現象の奥へ

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』──川端康成なら400字詰め50枚でしあげる(★★)

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(ジェーン・カンピオン監督、 2021年、原題『THE POWER OF THE DOG』

実際、この映画は、本来短編の味わいの作品である。章立てされているので、多少なりともすっきり見えるが。ミスディレクションの趣もあり、「完全犯罪」なら、江戸川乱歩の趣である。ジェーン・カンピオンがなにを狙っているかは、必ずしも明確ではない。カンバーバッチ扮する男の、知的でありながら、わざと粗野に生きているゲイの愛の複雑さなら、彼が最初に見初めたのは、キルスティン・ダンストではなく、彼女の息子であり、彼の気を引くために、わざと粗野に振る舞っているとも見える。そして、かつての「友人」の立場に自分がなり、かつての彼は、ダンストの息子のなよなよしたピーターと言える。そういう関係を「完結」させるように物語は終わる。あるいは、ダンストの息子の、復讐劇+母を守るための、「完全犯罪」なら、わりあい当たり前な話となる。

 いずれにしろ、長すぎ。カンバーバッチに、魅力はまったくない。というのも、ほんとうは繊細なのに、それを克服したという経歴が、その演技からは読み取れず、ただの粗野で終わっている。この俳優は、近年、多くの作品に出ているが、どれも同じに見える(笑)。表情で芝居ができないのだ。これが、クリスチャン・ベイルなら、まだなんとかなったかもしれないが、ベイルは、こんな作品では退屈だろう(笑)。キルスティン・ダンストも似たような味わいで、カンピオンは、もはや、この程度のキャストしか確保できない。

 カンバーバッチのおとなしい肥満の弟は、マット・デイモンに似ているなと思って、期待し、デイモンだったらすごいなと思ったが、まったくの別人であった。