現象の奥へ

【詩】

「くま」

くまという動物は、まことにかわいそうな動物だ。テディベアなどといって、愛玩用おもちゃにもなっているけど、SNSで流れてくるのは、十数年小さな檻に閉じ困られていて、はじめて野原に出た、とか、こういうかわいそうなくまはまだたくさんいるので、寄付をお願いします、とか。イギリスでは、パディントンとプーの二種のアイドルがいるけど、日本では、イヨマンテで生け贄にされるイメージが強く、それでもまだくまへの愛があったように思うが、いまでは、

民家に出没して、

「駆除されました」

というニュース。

この「駆除」ってことばを記者やアナウンサーはなにげなく使うが、

この

抽象的な言葉の内実は、

「銃で射殺した」

この「駆除」なる言葉、われわれのイメージでは、

ゴキブリやネズミに使う。

ゴキブリならしょうがないかな、とまあ、ワタシなんかは思う。

ネズミは哺乳類なので、いくらペスト菌をまき散らすとはいえ、

多少心は痛む。

この「駆除」なる言葉を人間に使ったのが、

例の

ヒトラーである。

この抽象的な言葉のもとに、

民族浄化は、

なんの心の痛みもなく行われた。

抽象的なことばで詩を書いている「詩人」さんがた、

その言葉の内実はなんですか?

言葉というものはそういうものです。

そして、いま、日々は圧倒的なスピードで過ぎていきます。

スピード、スピード、スピード!

スピードだけが人生だ。

ぼくはくま、くま、くま、

「みんなの歌」で、宇多田ヒカルが歌っていた。

ぼくはくま、くま、くま、

お願い「駆除」という言葉は使わないで。

射殺したと

言って。せめてもの

鎮魂のために。

一年経ったら、べつの時代になってるよ、そこの

あ・な・た。