現象の奥へ

【詩】「高木先生」

「高木先生」

 

うちはビンボーだったのに、母は私が小学一年になったら、絵を習いにいかせた。

小学生には遠い、豊橋駅を右手に左にまがって雑居ビルのなかにある文化ルームという、
おそらく市が主催していたいまでいう「カルチャー」に徒歩で通った。

その講師が高木先生といって、子どもの時分は知らなかったが、

いまでも、美術館に絵はがきが置いてあるような偉い画家だった。

その奥さんは、私が小学校にあがると、担任の先生だった。

そのひとも画家のようだった。

ノーブラで、ニットのセーターを肌にじかに着ていて、乳首が浮き出していたのを、
子どもごころに不思議な感じで見ていた。

あるとき、父の田舎へ行ったときの、遠州の山のまわり道路の絵を描いたら、

「あんた、ほんとうにこんなとこ行ったの?」と女の高木先生が言った。男の高木先生は、「このまま、(静物の背景を?)塗りつぶしなさい」と言った。

絵の教室は三年になるとやめてしまった。私はほっとした。
続いて行けると思っていた妹は、がっかりしたそうだ。