現象の奥へ

『ウエスト・サイド・ストーリー』──「こいつ映画がわかってやがる」(★★★★★)

『ウエスト・サイド・ストーリー』(スティーブン・スピルバーグ監督、2022年、原題『WEST SIDE STORY』)

 

「こいつ映画がわかってやがる」。NYで初めて、不本意ながら、スピルバーグのデビュー作『激突』を見させられた、淀川長治の台詞である。スピルバーグは、巨匠中の巨匠になった今も、そっくりそのまま、この言葉が当てはまる。

 物語を言葉で説明しない。映画でしかできない展開で、観客になっとくさせる「物語」を提出する。テーマは、古くて新しい、「純愛」。シェークスピアの『ロミオとジュリエット』のまんまである。それを、NYのマンハッタンに置き換えているが、リンカーン・センターができる前の時代と場所に、リアルに人種対立、移民の人々の貧しさが土台にあるが、それが今も変わらない。

 主役のアンセル・エルゴートは、まだ少年といってもいいときに出た、『ベイビー・ドライバー』を見た時から注目していた。さすがスピルバーグである。長身の端正な顔立ち、演技もうまい、こういう人材は、ハリウッドには掃いて捨てるほどいるだろう。しかし、内側から醸し出される清潔感はアンセルならではのものである。それでこそ、「ロミオ」である。シェークスピアでは、教会で、ロミオとジュリエットが出会い、一瞬で恋におちるが、この「一瞬」の描き方が、まさに映画でしかできず、スピルバーグはていねいに描いている。そして、ジュリエットの方が積極的で、先にキスをしてしまうのも、シェークスピアのままである。そして、ラストも──。