現象の奥へ

【詩】「羅生門」

羅生門

それは千年以上前の寓話で、
しかも龍之介という名の作家の
創作だった。
人心が荒れ果てた時代、
三十代の女性が半年つきあって
別れ話に逆上した八歳年下の男から逃げていた、
また三人組をいく組か形成して、
そこかしこで強盗を働くということがあり、
犯人のひとりは元自衛官だった。
その携帯のなかに、「こんど襲う家」の情報が入っていた。
警察は警戒したが、その家の九十歳の老婆は、
手足を縛られ激しい殴打のうちに死亡していた。
三十代の女の方は、刃物で滅多刺しによる失血死だった。
殴られて死ぬのと、刺されて死ぬのとどっちが痛いか?
羅生門の天井裏で死体を買いにきていた
レオナルド・ダ・ヴィンチは、
ほほのニキビを気にしながら考えた。
「をい!おれの作品を勝手に変えるな!」
瓜実顔の男が言った。
「なにさ、遺書に、作品集は岩波から出してくれって?」
「わたしに芥川賞をください」
そうつぶやいた死体があった。
名前を太宰治といった。