現象の奥へ

【詩】「ト書き」

「ト書き」

シェークスピアの作品にはト書きがほとんどない。
登場と退場があるだけだ。
それというのも、エリザベス朝の舞台には照明が松明のあかりしかなく、
薄暗かったから、こまごました装置はあってもしょうがなかった。
少年が女性を演じ、
それは、歌舞伎とまったく同じだ。
グロテスクな場面は、やがて、人形に変わっていく。
近代劇の戯曲には、こまごまとしたト書きがある。
それは装置家によって
具現化されていく。
俳優の肉体がはまっていく空間=現実となる。
どんなに泥臭い世界を描こうとそれは文字によって
表現されている。
それもまた文学の一部。