現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『オール・ユー・ニード・イズ・キル』──コロナ時代のサバイバル法を先取り?

◎『クワイエット・プレイス』のエミリー・ブラントが、トム・クルーズを鍛える女兵士として登場。日本のライトノベル作家桜坂洋原作。発想がすばらしい。

オール・ユー・ニード・イズ・キル』(ダグ・ライマン監督、2014年、原題『EDGE OF TOMORROW/ALL YOU NEED IS KILL/LIVE DIE REPEAT』)

このところ、SF的な大がかりな映画が目白押しだが、本作は、紋切り型のヒーローストリーを辿っただけの映画とは違った。生と死がループになっているという発想も新鮮だし、くりかえしのなかで、しだいに主人公が能力を高めていくというストーリーも、ゲームからの影響かもしれなが、「教養小説」(ビルドゥングス・ロマン)をどこか思わせる志の高さも匂う。
 こういうハイSFチック(私の造語です(笑))なストーリーを、トム・クルーズの的確な演技がリアルな深みのあるものにしている。いやー、よく考えてみたら、大した役者だ。かなり長い間スターの座にあるが、落ち目感がない。かといって、色を売っていたわけでも、わざとらしい「演技派」を見せつけるようなシリアスなドラマに出るわけでもない。ひたすら、フットワークも軽く、SF世界を闊歩してみせる。
 対するエミリー・ブラントも、女性らしさを残しながら、色を売らない演技で状況の厳しさを表出する。何度も生き返っては、軍人のエミリーが腕立て伏せをしているところに会いに行く。エミリーは床に這いつくばったまましばらく動かず、なにをしているのかと思うと、カメラが近づき、腕立て伏せ状態で止まっているのがわかる。トムが来たのでおきあがり、「Yes!」とこれ以上キリッとできないほどしっかりした声でいい、「What do you want?」。「なにか用?」
この場面は何度もくりかえされる。くりかえされるたびに、エミリーのきっぱりした態度が磨かれる。
 そして、その態度に対して、トムは、最後の場面だけ、厳しい兵士の表情を晴れやかな笑顔に変えていく……。そういう終わりの映画。
 トム・クルーズは、一時「難読症」という噂がたったが、これまで出てきたハズレのない作品をみると、ディカプリオ、ジョニー・デップブラッド・ピットといった連中のなかでは、誰よりも脚本を読む力があるように思う。

 アメリカでの題名は、『EDGE OF TOMORROW』だが、この、日本のラノベの題(?)が、内容を的確に表していて秀逸だと思う。