現象の奥へ

【本】谷沢永一著『反日的日本人の思想―国民を誤導した12人への告発状 』──イデオロギーと思想を混同(★)

反日的日本人の思想―国民を誤導した12人への告発状 』(谷沢永一著、PHP文庫、1999年10月1日刊)

かなり古い本であるが、Amazonをウロチョロしていて、本書のレビュアーが「つい最近」、絶賛していたので、興味を持った。そういや、「ヤザワだあ」によく似た名前(この著者の正しい名前の読みは、「たにざわえいいち」である)のこんな書き手が活躍していた時代もあった。あれから幾年、時代は何度も変わり、こんな著者も忘れ去られたが、問題は、先にも書いたように、「最近」本書が読まれ絶賛されていたという点にある。

(以下がAmazonに書いたレビュー(笑))

 この著者は、思想をイデオロギーと思い込んでいる。そしてここに告発されている12人の「反日思想家」、まあ、ざっくり言って「左翼的思想」の持ち主たちは、すべてとは言わないし、よく知らない人間もいるが、「思想家」なのである。そして、思想というものは、言葉でできあがっている。その人物の使う言葉がどこから来ているかをしっかりと掴まなければいけない。とすれば、まず、ソシュールを無視してなにか言うことはできない。著者が告発するこの12人の考えを「悪魔の思想」と、著者は呼んでいるが、その原因として、終戦のGHQの思惑、日本を二度と強国にしない目的でなされた作為のように書いている。そうした考えは、通俗的に根強く存在している。しかしまあ、現在(2020年12月23日)から見たら、日本の状況も世界の状況もかなり変わっている。これら12人の人々の思想が、完全に「左」であったのかさえおぼつかない。だいたい、アジア太平洋戦争後、日本が左翼国に対して卑下しすぎというが、昭和天皇に「戦争を遂行する意志があった」(吉田裕著『昭和天皇』)ということが証明されている今、この著者の言動はまったく意味をなさないとも言える。


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