現象の奥へ

映画レビュー

『キャッツ』──驚異の前衛詩のエンタメ化(★★★★★)

『キャッツ』(トム・フーバー監督、 2019年、原題『CATS』) もともとは、T.S.エリオットの「詩集」、"Old Possum's Book of Practical Cats"(『お役立ち猫たちのフクロネズミ爺さんの本』)を、「ミージカル化」したもので、歌詞はほとんど、エリオットの…

『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密 』──本格ミステリーを楽しもう!(★★★★★)

『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密 』(ライアン・ジョンソン監督、2019年、原題『KNIVES OUT』) ひさびさ本格ミステリーである。従って、名探偵の謎解きを楽しむべし。アクションや、誰か一人が目立ってかっこよく、ということを期待してはいけな…

『ジョジョ・ラビット』──監督の教養を疑う(★)

『ジョジョ・ラビット』(タイカ・ワイティティ監督、2019年、原作『JOJO RABBIT』) ナチスが殺戮したのは、敵国の敵もあろうが、おもに「内部」の「異分子」(ユダヤ人のほか少数民族、同性愛者など)を、まるで殺虫剤で害虫(事実、このイメージがヒトラ…

『リチャード・ジュエル』──映画はなにを描くべきか(★★★★★)

『リチャード・ジュエル』(クリント・イーストウッド監督、2019年、原題『RICHARD JEWELL』) 映画はなにを描くべきか。もちろん、「なんでも」監督の好きなものを描けばいい。しかし、やすやすと人を殺してしまうような映画に、あまりにも感情移入してはい…

『パラサイト 半地下の家族 』──『オールドボーイ』の域に達していない(★★)

『パラサイト 半地下の家族 』(ポン・ジュノ 監督、2019年、原題『PARASITE』) 2004年のカンヌでグランプリを取って、韓国映画の底力を見せつけた『オールドボーイ』(パク・チャヌク監督、2003年)のレベルの高さとどんでん返しには圧倒されたが、あれ以来…

『フォードvsフェラーリ 』──二人の最高の俳優をとくとご賞味(★★★★★)

『フォードvsフェラーリ 』(ジェームズ・マンゴールド監督、2019年、原題『FORD V FERRARI/LE MANS '66』) 本作は、車のブランドのどちらがすごいとか、そういうハナシではなく、勝ち目のないレースに勝ってバンザイの物語でもない。車を愛しすぎているピ…

『マザーレス・ブルックリン 』──ノートンの知性全開(★★★★★)

『マザーレス・ブルックリン』(エドワード・ノートン監督・脚本、2019年、原題『MOTHERLESS BROOKLYN』 Motherlessという意味を、深く知ると泣けてくる──。 主人公のライオネル(エドワード・ノートン)は、6歳の時母と死に別れ、ブルックリンのカトリック…

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 』──かませ〜いい女〜♪(★★★★★)

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 』( ジョナサン・レヴィン監督、2019年、原題『LONG SHOT』) 絶世の美女の国務長官と、失職したばかりのジャーナリストの恋。いわば「身分ちがいの恋」と言ってしまっていいのか? この二人、かつては、ベビー…

【昔のレビューをもう一度】『ブレードランナー 2049』──陳腐。(★★)

【昔のレビューをもう一度】『ブレードランナー 2049』──陳腐。(★★) ●『プリズナーズ』『複製された男』『ボーダーライン』『メッセージ』と多くを観て惹かれてきた、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督である。二回観て、評価を逆転させたが、冒頭を見逃した第一回…

【昔のレビューをもう一度】『聖杯たちの騎士 』──「ばれ」るようなネタなし(笑)(★)

● 本レビューで貶した俳優さんたちは、さすが一流、「その後」、りっぱに蘇ってます。それでこそプロ。とくに、クリスチャン・ベールは、「スター」ではなく、「俳優」であることを主張。『フェラーリ V.S.フォード』が楽しみである。 『聖杯たちの騎士 』(…

 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 』──スカイウォーカーの宇宙(★★★★★)

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 』(J・J・エイブラムス監督、2019年、原題『STAR WARS: THE RISE OF SKYWALKER』) 貴種流離譚の鉄則を踏んで、みなしごのレイは、姫であった──。出エジプト記宇宙編とでも言おうか。しかし、主役は女。フィ…

『家族を想うとき』──明日は我が身(★★★★★)

『家族を想うとき』(ケン・ローチ監督、2019年、原題『 SORRY WE MISSED YOU』) 批評氏は、「プワー・ワーキングクラス」などと、他人事のように書いておられたが、はたしてそういう「クラス」を描いた映画なのか? ある夫婦がおり、二人の子供がおり…

【昔のレビューをもう一度】『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(★★★★★)

『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(ノア・バムバック監督、 2014年、原題『WHILE WE'RE YOUNG』)──四十にして惑う(笑)。2016年8月21日 6時08分 ●『マリッジ・ストーリー』のノア・バムバック監督の5年前の作品。同じニューヨークを舞台に、カップルの…

【昔のレビューをもう一度】『リリーのすべて』──最も新しく知的な役者レドメイン(★5)

『リリーのすべて』(トム・フーパー監督、2015年、原題『THE DANISH GIRL』 2016年3月20日 22時01分 ベルクソンによれば、人の心と肉体(脳髄も含む)は平行していない。おそらく、性別なるものも、合理的な思想が考え出したものだろう。仮に男性と名づ…

『マリッジ・ストーリー』──結婚という制度と愛は別物を露呈(★★★★★)

『マリッジ・ストーリー』(ノア・バームバック監督、 2019年、原題『MARRIAGE STORY』 ある夫婦の「離婚に至るまでの物語」ではなく、「離婚を決めた夫婦」の、離婚までの「物語」。ありふれた「夫婦決裂」のハナシではない。「結婚」という社会制度が、い…

【昔のレビューをもう一度】『ベロニカとの記憶 』──インドの監督が撮る、イギリスの光と陰(★★★★★)

『ベロニカとの記憶 』(リテーシュ・バトラ監督、2017年、原題『THE SENSE OF AN ENDING』 2018年2月8日 11時36分 学生時代に対して、とくにノスタルジックな思い出を抱いているわけではない、老いた男に、ある日突然、法的な手紙が来て、昔同窓生だった女…

【昔のレビューをもう一度】『ダークナイト 』──ヒーロー(英雄)からナイト(騎士)へ(★★★★★)

●ここから、あの「ジョーカー」が生まれても、まったく不自然ではない。 『ダークナイト 』(クリストファー・ノーラン監督、2008年、原題『THE DARK KNIGHT』) 2008年8月24日 17時36分 最初、題名『ダークナイト』の「ナイト」は、夜のことだと思っていた…

『 ドクター・スリープ 』──スリープしてしまうほど怖くない(笑)。(★)

『ドクター・スリープ』(マイク・フラナガン監督、2019年、原作『DOCTOR SLEEP』 だいたい事情がわかってきた。『シャイニング』の監督キューブリックと、原作者スティーブン・キングは、その思想がまったく相容れない。キングは、子供たちを中心に、心霊的…

【昔のレビューをもう一度】『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』──バットマンあるいは(無知ゆえの高評価)(★★★★)

● 本作の価値を高めていた知的な俳優、エドワード・ノートンが、20年ぶりでメガホンを取った作品が待たれるお正月。 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』(アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督、2014年、原題『BIRDMAN OR (THE UNEXPECTE…

【昔のレビューをもう一度】『魂萌え! 』──秋吉久美子に負けた(笑)!(★★★)

『魂萌え! 』(阪本順治監督、2006年)2007年2月8日 23時16分 なんせ、『顔』の阪本順治監督ですからね、フツーのオバサンのハナシは作らないと思いましたよ。しかし、いかんせん、フツーのオバサンのハナシになってました(笑)。 こういう映画は、たいて…

【昔のレビューをもう一度】『ディパーテッド 』──ハリウッドが放つ純文学(★★★★★)

『ディパーテッド』(マーティン・スコセッシ監督、2006年、原題『THE DEPARTED』) 2007年1月22日 3時30分 本作を観て、私はやっと、マーティン・スコセッシという監督のことがわかったような気がする。彼のテーマは人間の心の動きで、その複雑な世界を表現…

【昔のレビューをもう一度】『キャロル 』──いま、女が心地よい(★★★★★)

『キャロル』(トッド・ヘインズ監督、2015年、原題『CAROL』)2016年2月17日 21時52分 50年代のアメリカの街や衣装、小道具、二人の女優の美しさにばかり目を奪われがちだが、この映画、演出が相当行き届いている。だいたい、男がろくでもないやつというか…

【昔のレビューをもう一度】『T2 トレインスポッティング 』──懲りない面々が放つ脱青春映画……2!(★★★★★)

『T2 トレインスポッティング』(ダニー・ボイル監督、2017年、原題『T2 TRAINSPOTTING』 2017年4月26日 3時10分 吉田健一によれば、ヨーロッパ人にとってのヨーロッパとは、故郷のなじんだ風景以外のなにものでもないそうで、それは当然、それぞれに違う。…

『イエスタデイ 』──今年度ベスト3内確実(★★★★★)

『イエスタデイ』(ダニー・ボイル監督、2019年、原題『YESTERDAY』 主人公に魅力を感じなかったというレビュアーがいた。それは、有色人種であり、あまり顔を知られてない俳優だったから? ダサい有色人種の主人公は、『スラムドッグ$ミリオネア』で、デブ…

【昔のレビューをもう一度】『ブラック・スキャンダル』──洗練された21世紀の犯罪(暴露)映画(★★★★★)

『ブラック・スキャンダル』(スコット・クーパー監督、 2015年、原題『BLACK MASS』)2016年2月1日 7時43分 共感できる人物はひとりも出ない。70年代、FBI最大のスキャンダルとされる、アイルランド・マフィアがからんだ「実話」であるが、いやな感じは少し…

『真実 』──フランスに樹木希林はいない(★)

『真実』(是枝裕和監督、2019年、原題『LA VERITE/THE TRUTH』 パリの閑静な地区の広い庭のある一軒家に、往年の大女優の自伝出版を祝うため、ニューヨークに住む娘一家が集まって、その娘の父親で、昔の夫なども登場、忠実な秘書や、今の男(当然ジジイ)…

【昔のレビューをもう一度】『グランド・ブダペスト・ホテル』── ポスト・ポスト・モダン的(★★★★★)

『グランド・ブダペスト・ホテル』(ウェス・アンダーソン監督、2013年、原題『THE GRAND BUDAPEST HOTEL』 2014年6月9日 16時15分 ストーリーはあるにはあるが、ウェス・アンダーソンが本作で描きたかったのは、「一覧できるヨーロッパ的なるもの」と、「そ…

【昔のレビューをもう一度】『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 』──大竹しのぶ+市村正親の方がはるかによい(★★)

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 』(ティム・バートン監督、2007年、原題『SWEENEY TODD: THE DEMON BARBER OF FLEET STREET』) 2008年1月23日 2時35分 本作は、もともとあるミュージカルの「古典」を映画化したもので、復讐劇も人肉パイ…

『アド・アストラ 』──最高に美しいブラピとまったく新しい映画(★★★★★)

『アド・アストラ』(ジェームズ・グレイ監督、2019年、原題『AD ASTRA』) 本作は、キューブリックの『2001年宇宙の旅』を見てない人、ホメロスの『オデュッセイア』を読んでない人、また、テオ・アンゲロプロスの『ユリシーズの瞳』を見ていない人、スピル…

『SHADOW/影武者 』──あの赤、さすが中国のスピルバーグ(★★★★★)

『SHADOW/影武者 』(チャン・イーモウ監督、2018年、原題『影/SHADOW』 三国時代、日本で言えば、弥生時代で卑弥呼が活躍(笑)、西洋は、ローマ帝国の時代である。そんな時代の、国盗り物語の一エピソード、腕も頭もたつ、重臣の一人が、国を取り返そうと…