批評
【短編を読む】『桜桃』太宰治(初出、昭和23年「世界」5月号)四百字詰め換算約19枚。「日本語の勉強のため」編集者のすすめで、「現代短編名作選」(日本文芸家協会編、講談社文庫(であるが、今は入手困難))を読んでいて、10冊あるうちの、第1集である…
最果タヒ詩集『不死身のつもりの流れ星』(PARCO出版、2023/2/1 )──すでに陳腐化(★★★) 新しいものも、画期的と思える感性も、書き方も、詩というものへの味方も、同じスタイル感覚を繰り返せば、陳腐化する。出版社は変わっても、装幀は似たようなシリー…
【短編を読む】「大岡昇平『俘虜記』」(初出『文学界』昭和23年2月号。四百字詰め換算約96枚)本作は、のちに連作長編として一冊の書物となる第一章、「捉まるまで」の部分であるが、最初は、昭和23年に『文学界』に短編の形で発表された。単体の短編と連作…
『ゴヤのファースト・ネームは』(飯島耕一著、1974年、青土社) A4判。装幀安藤元雄。しかしながら、安藤も、この詩集を理解していたとは言えない。装幀もよくない。発刊当時、私は大学生で、詩を書き始めた頃というか、なんとなく、書いていた。すでに、…
【今井義行の最新詩】 かなり前から今井義行の詩の読者であったが、最近活動がないと思ったら、また、たいへんな目に遭って、「よみがえって」きて、その体験を作品にしている。すべては、そこに詳しく描かれているので、事情はすぐわかる。たいていの言葉は…
細田傳造の最新詩「森の方へ」「燃えるゴミの日のラファエル」@『Ultra BardS(ユルトラ・バルズ)』Early Summer 2022 vol.37 印刷はきれいな、エリート臭漂う、しかし編集センスは決してよくない、そういう同人誌(にも)、細田傳造は加わっている。それ…
【オーデンの「新年の手紙」その一節を訳してみると……】 A New Year Greeting W.H.AudenOn this day tradition allots to taking stock of our lives,my greetings to all of you, Yeasts, Bacteria, Viruses,Aerobics and Anaerobics: A Very Happy New Yea…
「安全マッチ」(アントン・チェホフ作、宇野利泰訳、翻訳原稿400字詰約60枚、『世界短編傑作集』(江戸川乱歩編、創元推理文庫所収、なお、膨大な短編を書いたチェホフゆえ、筑摩書房の全集には入っていない) フランスの推理作家エミール・ガブリオを耽読…
【短編を読む】「虫のいろいろ」尾崎一雄(昭和23年『新潮』1月号、400字詰原稿用紙約25枚) たとえ詩であっても、もはや、このような微細な題材で、微細な視点で、深い思考を書く人はいない。病気で寝ている作者が、天井に止まっている蠅やガラス戸のク…
【短編を読む】「横光利一『微笑』(四百字詰76枚程度)──死がまだ美しかった時代 昭和23年1月に「人間」に発表されたが、横光は22年に死んでいる。終戦寸前の、秘密兵器開発に携わるある青年との出会いを描いているが、その青年は天才で、軍に特別の扱いを…
もう長い間、同じパターンが続いている。12月号にアンケートと膨大な(笑)詩人の住所録、1月号は、このカイシャが代表的だと認める詩人の作品群で、ここに「入選」した人々が、あくまでこのカイシャの「一流」ということになる。メンバーのなかには、ブラン…
『満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉』(加藤陽子著、岩波新書、2007年) たとえば、第二次世界大戦より悲惨だとされる第一次世界大戦の始まりは、オーストリア皇太子の暗殺であるが、それまでの「経緯」は、フランスとドイツの経済戦である…
『日本小説批評の起源』(渡部直己著、2020年6月26日、河出書房新社刊)──名著『日本文学評論史』(久松潜一著)の存在をまったく知らないようである。(★) 本書の決定的瑕疵は、「批評」と「評論」が分かたれてないことである。著者(と関係編集者)はどう…
2020.10.29 中島敦「狐憑」「木乃伊」「狐憑」(400字詰め16枚) 1,物語の内容、語り方、まるでボルヘス。 2,50年生きれば、ボルヘスになれた? 「木乃伊」(400字詰め14枚) 1,ボルヘスを超えているとも言える。 2,描かれている世界が広大で、主題が知…
泉鏡花「蝿を憎む記」 2020.10.27 泉鏡花「蠅を憎む記」(1901)(400字詰め11枚) 1,たかが蝿が飛んでいる様子をここまで濃やかに描けるか。 2,それが皮肉やユーモアを生む。 3,省略の美。 4,一二〇年近く前の作品なのに驚き。 5,事情などなにも説明な…
芥川龍之介「南京の基督」(1920)(400字詰め30枚) 1,ありそうな寓話であるが、中国少女の娼婦の具体的な描写が興味を引く。エロチックかつ牧歌的、清純かつ猥雑。 2,こういう作品は、今の作家には描けない、描ける力量も教養もないと思われる。描けばま…
【短編を読む】久生十蘭「母子像」(1953.7)400字詰め27枚。 1,なにがなんだかわからないまま突然始まるが引き込まれる。 2,時おりの情景描写がおもしろい。 3,「戦争の悲惨さ」などというものを超えた、ありのままの描写が文学の豊かさを獲得。
【短編を読む】2020.10.21中上健次「JAZZ」(400字詰め13枚)(1966.12) たった13枚を10章に分けた、小説というより、詩のようである。しかし、やはり、小説にしているのは、なんであろうか? 「俺」という存在のリアルであろうか?
『Ultra Bards(ユルトラ・バルズ)』(Autumn 2020 vol.34)(毎回、書名は、イミフ) 薄い冊子であるが、本文文字は、葡萄色で、大きさも、180円のスマートレターには微妙に入らないサイズで、370円?のレターパック・ライトで送るしかない。そして、原稿…
室生犀星「寂しき魚」(400字詰め16枚) 1,あくまで魚と沼の話から離れず、丁寧に描写していく集中力。たかが魚の死を、ブロッホの大作『ウェルギリウスの死』を彷彿とさせるような深さと表現。 2,生の不条理を、自然描写で表現。
森鴎外「吃逆(しやくり)」(400詰め20枚、1912.5) 1,「かのように」などの、連作のようであるが、やはり鴎外の特徴の、外国語原語を、果たして読者が解するかどうかなど気にせず、どんどん登場させ(parvenu=成金、のごとく)、背景のスノビズムを表現…
【短編を読む】三島由紀夫「サーカス」(400字詰め18枚) 「大興安嶺に派遣された探偵の手下であった」といとも簡単に表現されるが、曰くありげな過去を持つサーカスの団長に虐げられる、薄幸な曲馬乗りの少年と綱渡りの少女の話を、団長の捻れた愛の寓話と…
【短編を読む】三島由紀夫「中世に於ける一殺人者の遺せる哲学的日記の抜粋」(1943.2、400字詰め換算23枚) 「殺人者の日記」であるが、むしろ、殺された者たちの様相をアフォリズム風に描写。日本の中世なのだが、どこか洋風の雰囲気で、殺人者と、友…