現象の奥へ

批評

【短編を読む】「安全マッチ」(アントン・チェホフ)

「安全マッチ」(アントン・チェホフ作、宇野利泰訳、翻訳原稿400字詰約60枚、『世界短編傑作集』(江戸川乱歩編、創元推理文庫所収、なお、膨大な短編を書いたチェホフゆえ、筑摩書房の全集には入っていない) フランスの推理作家エミール・ガブリオを耽読…

【短編を読む】「虫のいろいろ」尾崎一雄(400字詰約25枚)

【短編を読む】「虫のいろいろ」尾崎一雄(昭和23年『新潮』1月号、400字詰原稿用紙約25枚) たとえ詩であっても、もはや、このような微細な題材で、微細な視点で、深い思考を書く人はいない。病気で寝ている作者が、天井に止まっている蠅やガラス戸のク…

【短編を読む】「横光利一『微笑』(四百字詰76枚程度)──死がまだ美しかった時代

【短編を読む】「横光利一『微笑』(四百字詰76枚程度)──死がまだ美しかった時代 昭和23年1月に「人間」に発表されたが、横光は22年に死んでいる。終戦寸前の、秘密兵器開発に携わるある青年との出会いを描いているが、その青年は天才で、軍に特別の扱いを…

商業詩誌なう

もう長い間、同じパターンが続いている。12月号にアンケートと膨大な(笑)詩人の住所録、1月号は、このカイシャが代表的だと認める詩人の作品群で、ここに「入選」した人々が、あくまでこのカイシャの「一流」ということになる。メンバーのなかには、ブラン…

『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)──文章が下手で世界史的視点を欠く(★★)

『満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉』(加藤陽子著、岩波新書、2007年) たとえば、第二次世界大戦より悲惨だとされる第一次世界大戦の始まりは、オーストリア皇太子の暗殺であるが、それまでの「経緯」は、フランスとドイツの経済戦である…

渡部直己著『日本小説批評の起源』──名著『日本文学評論史』(久松潜一著)の存在をまったく知らないようである。(★)

『日本小説批評の起源』(渡部直己著、2020年6月26日、河出書房新社刊)──名著『日本文学評論史』(久松潜一著)の存在をまったく知らないようである。(★) 本書の決定的瑕疵は、「批評」と「評論」が分かたれてないことである。著者(と関係編集者)はどう…

【短編を読む】中島敦「狐憑」「木乃伊」

2020.10.29 中島敦「狐憑」「木乃伊」「狐憑」(400字詰め16枚) 1,物語の内容、語り方、まるでボルヘス。 2,50年生きれば、ボルヘスになれた? 「木乃伊」(400字詰め14枚) 1,ボルヘスを超えているとも言える。 2,描かれている世界が広大で、主題が知…

【短編を読む】泉鏡花「蝿を憎む記」

泉鏡花「蝿を憎む記」 2020.10.27 泉鏡花「蠅を憎む記」(1901)(400字詰め11枚) 1,たかが蝿が飛んでいる様子をここまで濃やかに描けるか。 2,それが皮肉やユーモアを生む。 3,省略の美。 4,一二〇年近く前の作品なのに驚き。 5,事情などなにも説明な…

【短編を読む】芥川龍之介「南京の基督」

芥川龍之介「南京の基督」(1920)(400字詰め30枚) 1,ありそうな寓話であるが、中国少女の娼婦の具体的な描写が興味を引く。エロチックかつ牧歌的、清純かつ猥雑。 2,こういう作品は、今の作家には描けない、描ける力量も教養もないと思われる。描けばま…

【短編を読む】久生十蘭「母子像」

【短編を読む】久生十蘭「母子像」(1953.7)400字詰め27枚。 1,なにがなんだかわからないまま突然始まるが引き込まれる。 2,時おりの情景描写がおもしろい。 3,「戦争の悲惨さ」などというものを超えた、ありのままの描写が文学の豊かさを獲得。

【短編を読む】中上健次「JAZZ」

【短編を読む】2020.10.21中上健次「JAZZ」(400字詰め13枚)(1966.12) たった13枚を10章に分けた、小説というより、詩のようである。しかし、やはり、小説にしているのは、なんであろうか? 「俺」という存在のリアルであろうか?

【雑誌評】『Ultra Bards(ユルトラ・バルズ)』(Autumn 2020 vol.34)

『Ultra Bards(ユルトラ・バルズ)』(Autumn 2020 vol.34)(毎回、書名は、イミフ) 薄い冊子であるが、本文文字は、葡萄色で、大きさも、180円のスマートレターには微妙に入らないサイズで、370円?のレターパック・ライトで送るしかない。そして、原稿…

【短編を読む】室生犀星「寂しき魚」

室生犀星「寂しき魚」(400字詰め16枚) 1,あくまで魚と沼の話から離れず、丁寧に描写していく集中力。たかが魚の死を、ブロッホの大作『ウェルギリウスの死』を彷彿とさせるような深さと表現。 2,生の不条理を、自然描写で表現。

【短編を読む】森鴎外「吃逆(しやくり)」

森鴎外「吃逆(しやくり)」(400詰め20枚、1912.5) 1,「かのように」などの、連作のようであるが、やはり鴎外の特徴の、外国語原語を、果たして読者が解するかどうかなど気にせず、どんどん登場させ(parvenu=成金、のごとく)、背景のスノビズムを表現…

【短編を読む】三島由紀夫「サーカス」

【短編を読む】三島由紀夫「サーカス」(400字詰め18枚) 「大興安嶺に派遣された探偵の手下であった」といとも簡単に表現されるが、曰くありげな過去を持つサーカスの団長に虐げられる、薄幸な曲馬乗りの少年と綱渡りの少女の話を、団長の捻れた愛の寓話と…

【短編を読む】三島由紀夫「中世に於ける一殺人者の遺せる哲学的日記の抜粋」

【短編を読む】三島由紀夫「中世に於ける一殺人者の遺せる哲学的日記の抜粋」(1943.2、400字詰め換算23枚) 「殺人者の日記」であるが、むしろ、殺された者たちの様相をアフォリズム風に描写。日本の中世なのだが、どこか洋風の雰囲気で、殺人者と、友…