現象の奥へ

Entries from 2020-01-01 to 1 year

【詩】「鴉(The Raven)」

「鴉(The Raven)」 二年前愛犬が死んだ時、京都の寺へ彼女の生まれ変わりに出会えることを祈願しに出かけたその留守を狙って(夫は外国へ行っていたから、完全に無人だった)、ベランダのシンクの棚に置いた、使い古して薄くなった石鹸を、石鹸箱に大量に…

【詩】「UNIXあるいは実行ファイル」

「UNIXあるいは実行ファイル」 UNIXは私生活をさらけ出してそれが詩になるかという問には答えない。 さらにその「女」が老いぼれてまだそんな芸で受けを狙っているという問題にも関与しない。 その「オバハン」がTwitterで私をブロックしているというかなり…

【詩】「古地図あるいは心象」

「古地図あるいは心象」 この夜、中世のひとに話しかけていた すでに滅びてしまった帝国に擁護されていた修道院 で筆写された書物の 内容よりは素材の ことが話題になった遠い宇宙のそう、 六百年は遅れていたかしら 記憶とか夢は またべつの惑星のランガー…

『ブレスレット 鏡の中の私 』──どういうつもりでこんな映画を作ったのか?(★)

『ブレスレット 鏡の中の私 』(ステファヌ・ドゥムースティエ監督、2019年、原題『LA FILLE AU BRACELET/THE GIRL WITH A BRACELET』) フランス語が聞きたくなって、この映画を選んだが、ほとんどが裁判シーンの低予算お手軽映画だった。確かに扱っている…

『ベージュ 』──ついぞ「惨めさ」に縁のなかった詩人(★★★★)

『ベージュ』(谷川俊太郎著、 2020/7/30刊、新潮社) 「大御所」であるが、この詩集は、「私はそういうものには関係ないですし、関係ないように生きてきました」と言っているような「装丁」である。31編の詩を含んでいるが、どちらかと言えば「薄くて小さい…

【Bookレビュー】『新型コロナウイルスを制圧する』──目次に期待して読むと肩透かしを食う(★★)

『新型ウイルスを制圧する』(河岡義裕 語り、河合香織 聞き手)(2020年7月30日、文藝春秋刊) この本は、山中伸弥氏のサイトで紹介されていたので信頼がおけると思って買ってみたが、「東京大学医科学研究所ウイルス感染分野教授」の河岡義裕氏へのイン…

【詩】「眠りの影のなかの」

「眠りの影のなかの」 世の中に ベージュにまさる色はないような気がしてきた土曜日の午後 妥協して カーキのガーゼ織りに触るのだが やはりこころのなかは 依然ベージュを夢見ている そんな「コロナ元年」のある日 祖父と思い込んでいた老人に 報告せねばな…

『悪人伝 』──仁義なきカタルシス(笑)? (★★★★★)(ネタバレ注意!)

『悪人伝』(イ・ウォンテ 監督、2019年、原題『THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL』) タランティーノより残酷、スピルバーグよりうまい。なにより頭で作ってない。生活感を出しながら、物語を展開させる。でたらめ、はちゃめちゃ、どろどろ……仁義なき、ど…

【昔のレビューをもう一度】『グッバイ・ゴダール! 』──いかにもゴダールチックな偽物(★)

『グッバイ・ゴダール』(ミシェル・アザナヴィシウス監督、2017年、原題『LE REDOUTABLE/GODARD MON AMOUR』)2018年7月23日 4時26分 『ゴダール全評論・全発言』(筑摩書房)によれば、ゴダールはなによりも作家になりたくて、しかも、かなり長い間、評論…

 『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』──少年の成長物語(★★★★★)

『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』(ニコラウス・ライトナー監督、2018年、原題『DER TRAFIKANT/THE TOBACCONIST』) 小さな「ビルドゥングス・ロマン」(トーマス・マン『魔の山』のような青年の成長物語)である。小さなというのは、歴史的…

【昔のレビューをもう一度】 『神々のたそがれ』──あらゆる快楽を拒絶する映画(★★★★★)

●最近、しきりにこの映画が思われる。いまの「外」の景色はこんな風ではないかと。 『神々のたそがれ』(アレクセイ・ゲルマン監督、2013年、原題『TRUDNO BYT BOGOM/HARD TO BE A GOD』) 2015年7月20日 15時19分 このレビューを書く前に、ほかの方々が書か…

今日の引用

「はやり来て撫子かざる正月に」(杜国(『冬の日』) この「はやり」は、疫病のこと。夏に正月をすることによって、縁起直しをする。

【詩】「時間の引用」

「時間の引用」 タヴィアー二兄弟の『サンロレンツォの夜』は確かに観たと思うが、その紺色のイメージ以外思い出すことができない。日本映画で美しい映画といえば『泥の河』で泥色の雨が降りしきる川面にできる水の輪っぱ以外思い出せないこともない。河岸に…

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時 』──「物語」をからくも回避(★★★★★)

『グレース・オブ・ゴッド』(フランソワ・オゾン監督、2019年、原題『GRACE A DIEU/BY THE GRACE OF GOD』) 20年以上前、日本人でバチカンに留学し、神父のエリート街道にある人を、人に紹介され、食事を数回するうち、いろいろ話を聞いたことがある。カト…

『チア・アップ! 』──老いてますますかっこいいダイアン・キートン・ショー(★★★★★)

『チア・アップ』(ザラ・ヘイズ監督、2019年、原題『POMS』) 「ばあちゃんたちのしわを見るだけの映画でした」というレビューがあったけど、見る前に、わからんかったのかね? どんな映画か。まさか、若き美女が美しい肢体ですばらしいダンスを披露するっ…

【詩】「創世」

「創世」 脚に刺さる棘のような草の生い茂る沼に舟を漕ぎいれ 泥に足を入れるは、 おのれを火とも知らぬ火 と書いたは、ボルヘス 詩人は曲線の美しさを教え ウイルスはRNAの曲線を学ぶ すべて 宇宙のはじまりの日 いまだ この宇宙は誰かの網膜の残像でし…

【詩】「ハメット!」

「ハメット!」 雨が切り裂くものは 後悔か野心か 「しまった!」とつぶやく者は 探偵か作家か中国女か すべて小説は T.S.エリオットが説くように メロドラマなのだ。だからオレは 手の中に愛のようなものを握りしめ トリガーを引いた 雨が切り裂くものは 映…

岡井隆追悼

岡井隆追悼。 「モルモットを掴むとき手がまことたゆく袖はしきりに汚穢(おえ)にふれゆく」 (『土地よ、痛みを負え』より、塚本邦雄選『現代短歌大系7』三一書房、1972年刊)

『その手に触れるまで』──複雑なキリスト賛美映画(★★★)(ネタバレ注意)

『その手に触れるまで』( ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ監督、2019年、原題『LE JEUNE AHMED/YOUNG AHMED』) 本作は、『息子のまなざし』(2002年)と、『少年と自転車』(2011年)に構造とテーマが似ていて、テーマは、少年である。…

【詩】「Argument(論拠)」

「Argument(論拠)」 友情の終わり 死んでしまった隠喩を拾って なにか元に戻せるものがあるかと きみと私の時間たちが手をつないで 歩いている夜 流れるのは時間 流れるのは川 流れるのは涙 流れるのは音楽 流れるのは仏のお経で 中国語のような 簡潔さが…

【詩】「アクティング」

「アクティング」 あなたと、対象の間に、あなたの思想と歴史と世界を詰め、 証明していくこと。それは、 絶対的な孤独、無や匂いがあなたの味方 囁いてくれる、誠実であれば、 衣装とか照明とかカメラとか メークとか。 漕ぎ出す舟の最初のひと漕ぎ 見ては…

『一度も撃ってません』──半年間思い出し笑い必至のごきげんな映画(★★★★★)(ネタバレ注意!)

『一度も撃ってません』(阪本順治監督、 2019年) アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』もそうだったが、映画と演劇というものが対立するものではなくて、実は境目のないものであることを証明している映画が近年出てきているが、本作もそのひとつ…

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』──さすがアレン、オバサン的どんでん返し(★★★★★)

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(ウディ・アレン監督、2019年、原題『A RAINY DAY IN NEW YORK』) ニューヨークは、14年前に行ったきりだ。そのときも、雨が降っていた。1月下旬の真冬で、かなり寒いと脅されていたが、その年は、わりあい温暖で…

【詩】「東方」

「東方」 空の はるか遠い円のなかで 風すじは死ぬ とウンガレッティは書いているが はたして どの空か 方向を失ってはや 36億年 遠いのか 近いのか 夢なのか 記憶なのか ことばなのか 距離なのか

『ANNA/アナ 』──ビッチに乾杯!(★★★★★)(ネタバレ注意!)

『ANNA/アナ 』(リュック・ベッソン監督、2019年、原題『ANNA』) リュック・ベッソンと自分は、ほとんど同じことを考えているのではないか?と思うぐらい今回の映画には興奮した。作られる女スパイとは、どうせ、KGBの幹部役のヘレン・ミレン(父はロ…

【昔のレビューをもう一度】『ゲティ家の身代金』──「カンヌ」なんてカンケーねえな(爆)(★★★★★)

『ゲティ家の身代金』(リドリー・スコット監督、2017 年、原題『ALL THE MONEY IN THE WORLD』) 2018年6月7日 10時13分 1973年に起こった、大富豪の孫の誘拐事件がもとになっている。1973年といえば、オイルショックの年である。日本では街中の灯りが消え…

『ペイン・アンド・グローリー』──男が男を愛する時(★★★★★)

『ペイン・アンド・グローリー』(ペドロ・アルモドバル監督、2019年、原題『DOLOR Y GLORIA/PAIN AND GLORY』) 見ているうちに、自然に、『欲望の法則』(1987年)を思い出した。そしてそれはちょうど、本編で語られる、「32年前の映画」だった。男三人の…

「誇り高き野良の肖像」

「誇り高き野良の肖像」

【昔のレビューをもう一度】『オオカミは嘘をつく』──イスラエル人がイスラエルを告発した映画(★★★★★)

『オオカミは嘘をつく』(アハロン・ケシャレス ナヴォット・パプシャド監督、2013年、原題『BIG BAD WOLVES』) 2015年1月29日 1時00分 タランティーノ絶賛!という宣伝文句だが、それもよくわかる。「タラちゃん絶賛!」がなかったら、スルーされていた映…

行わけ詩?

ボルヘスは、詩の内実は、リズムだと言っている。そういうとき、行わけが必要になるんです。自分は、T.S.エリオットから詩を学んでいるんで、日本の詩人のみなさんが、散文がどうこう、行わけがどうこうと、侃々諤々している意味がまったくわかりません。だ…