現象の奥へ

「源氏物語」

「源氏物語」この時代、紙は貴重なり。ゆえにパトロンがいる。パトロンは、「教え子」中宮彰子の父、藤原道長なり。全巻中、雲隠という章は題名のみ。はて。雲隠の章は紛失す。宣長だったか。それ以前の章は後より付け足された章なり。ゆへに、雲隠の章から…

「トーマス・ベルンハルト、絶望だけが人生だ」

「トーマス・ベルンハルト、絶望だけが人生だ」さて、絶望の描き方は、誰に教わる?単純化してもまだしたりないキリスト教徒サミュエル・ベケット?豪華絢爛なキリスト教徒ダンテ・アリギエーリ?(そう。ダンテはファーストネームなんだ)このオーストリア…

「愚かな薔薇」

「愚かな薔薇」夢の奥で待ち構えている夢。そいつに、つかまるな!あなたから昼を洗い流す、暗い水の底に消えろ!無が与えてくれる死を憩わず、淫らな驚異を笑い尽くせ!さようならデミトーリアス、誰だったか、もう忘れたけど。王妃が葡萄酒色の裳裾で王の…

「貫之」

「貫之」つらゆきといふ名が風になつたりもみぢになつたり、ひゆになつたり、をとば山の梢になつたり、して、時間としてわたしの内部にとけるとき、じさつしゃがやってきて、じつとみつめてくれるなまえはべるんはるとおーすとりあのだいしじんなり。しかし…

「花」

「花」幼いころ、私は恐れた。真夜中に花は私をじっと見つめているのではないかと。あるいは、走り回って、げらげら笑っているのではないか。それでずっと起きていて、ある真夜中、花の中をのぞき込んだ。案の定、そのなかからじっとこちらを見ている顔があ…

「明日は帰ろう本能寺」

「明日は帰ろう本能寺」フロイスの日本史によれば、焼け跡から白い骨が見つかったそうである。ときはさつきのまさに、名残の句が用意されようとしていたとき、まさに、土岐(とき)一族がその時代、法華経の寺ではしばしば、処刑が行われたと書かれている。…

「秋」

「秋」日本では、「詩」といえば、明治時代まで、漢詩のことであった。詩人の方々がよく口にする「現代詩」というのは、出版社が創ったものである。そんな形式、ジャンルが通用するのは日本だけである。今信じられている「詩」は「近代詩」のことで、イギリ…

舗道

「舗道」思い出せないボードレールの一行があり、朗読するミシェル・ピコリのしゃがれた声があり、彼が通り過ぎていく舗道がある。その下にはどんな革命が眠っていたのか。ピコリの声はすでにすべてを諦めているような。二度と訪れぬ街があり、その街には思…

【詩】「驟雨」

「驟雨」出会った時、すでに背負いきれないほどの苦悩を背負っていたふたり、と小林秀雄は書く。それは、ドストエフスキーの『永遠の良人』の登場人物についてであるが、これが、トルストイなら、もっと長々と事情を書くだろうと。潔い構成。いかにも「現代…

「サミュエル・ベケットが書くプルースト論」

「サミュエル・ベケットが書くプルースト論」プルーストの『失われた時を求めては』は、モンクリーフの英訳で、4000ページ、150万語から成る。これをベケットは仏語と英語で、数回読み通し、小冊子で100ページ足らずの評論を書いた。 方程式を探るために、「…

「台湾」

「台湾」台湾とはなにか?それは、埴谷雄高の幼少時の朝から泳いだ森林に囲まれた谷川を持つ、地球のどこかである。観光的な視点も政治的な視点も、ない。無垢な原風景を蔵する「場所」。そこには、戦いも殺戮もなく、なにもない。高橋和巳を鎮魂する埴谷の…

「夏のテクスト」

「夏のテクスト」宇宙は偶然のなかから生まれたなら、あらゆるテクストはテクストクリティークを、たとえ無意識でも、含んでいなければならず、古今集のなかに柿本人麿の歌が七首混入されていることに留意しなければならず、わがやどの池の藤波咲きにけり山…

「中原中也」

「中原中也」NHKの朝ドラで、差別的な母親が息子の結婚を反対している。相手が大学を出ていない、家柄が悪い……とかなんとか、ありきたりのいちゃもんをつけて。その母、鈴木保奈美が演じているが、中原中也を愛読している。一方息子も、心優しき恋人に諭…

「アフロディーテーを待ちながら」

「アフロディーテーを待ちながら」百億光年の光のなかから、すべての愛、のようなものを否定して、帰って来いアフロディーテー、最愛の女。その都市にはすでに名前はなく、男の名前もついぞおまえの記憶から消えた。ある星のエネルギーのように、まだ解明さ…

「固有名」

「固有名」 「人物の名を語ること、それは顔を表現することである。ありとあらゆる名詞や常套句の只中にあって、固有名は意味の解体に抵抗し、私たちの発語を支えてくれるのではないだろうか」(エマニュエル・レヴィナス)そこで積み重なる日々は習慣という…

「ジアコモ・レオパルディがどんな詩人か、『春の雪』のなかでフランス人に知らしめたのは、三島由紀夫である」

「ジアコモ・レオパルディがどんな詩人か、『春の雪』のなかでフランス人に知らしめたのは、三島由紀夫である」Le monde n'est que fange.「そして世界は泥である」と、ベケットは、プルースト論のエピグラムとして、レオパルデイの詩の一行を掲げた。この、…

「ロラン・バルトは舟木一夫のことをいい男だと思っている」

「ロラン・バルトは舟木一夫のことをいい男だと思っている」日本をopaque(不透明な)の国と規定するバルト。ちょうど朝霧に包まれた水辺をゆったりと舟がゆくように、バルトの視線は日本国を流れていく。眼にとまったのは、武将姿のいい男。Que beau homme …

「一冊の書物」

「一冊の書物」ボルヘスに同題の詩があるが、これはそれとは関係ない。女は殺し屋で、同時に古書店を営んでいて、あるとき、男がやってきて、古書好きのひとに贈るのだがと切り出す。それでは、あれがお勧めですわ、女は書棚の扉を鍵で開けて一冊の書物を取…

「夢」

「夢」たいていの人は、自分の見た夢を、言葉で表現する。それも、自分が受けた教育の範囲でつかんだ整合性の枠に通じる言葉で。夢は言葉なのか?夢はイメージなのか?夢は記憶なのか?前頭葉の発露なのか?ひとは夢をストーリーに置き換える。その置き換え…

「漱石、漱石と出会う」

「漱石、漱石と出会う」漢詩の詩形は古詩と近体詩。古詩は一句の中の韻律の形、平声(ひょうしょう)の字と仄声(そくしょう)の字配置が自由、長さも自由。近体詩は、平仄の配置に定型があり従うのが礼儀。長さも、八行は律詩、四行は絶句。文科二年の漱石…

「ピーター・ブルック」

「ピーター・ブルック」私の人生に影響を与えた一人に、高校生の時出会い、芝居には衣装も装置も道具もなくていいんだと知った。その後、高校生の演劇コンクールで、舞台の上に俳優が椅子と衣装の包みを持ち込み、そこで着替えるという脚本を書いた。演劇コ…

「モランディの色」

「モランディの色」Raw sienna──見た目、薄茶色。遠い草原のコオロギたちの寝場所。Warm grey deep──暖かい眠り。Greenish umber──終わっていく夏休み。Perm.blue violet──破滅をはらんだ淡い恋心。Yellow ochire──獣たちの会議。Cold grey deep──懐かしい香…

「太陽と月に背いて」

「太陽と月に背いて」見つけた! 何を! 永遠を!ディカプリオの長い脚。小林秀雄が卒論の面接で、フランス語で聞かれた。ランボーはどんな詩人か?論文の仏文はすばらしかったが、小林は会話が得意でなく、ランボー、グランポエット。を繰り返すのみ。私は…

「血まみれピーナツ」

「血まみれピーナツ」やっちまった、やっちまった、やちまたは、ピーナツのまち、ではない。もはや、やっちまった、やっちまった、やちまたは、危ない通学路のまち、やっちまった、やっちまった、小学生の通学の列に、クルマが突っ込んだ、だって、舗道もな…

「論語に捧ぐ」

「論語に捧ぐ」金持ち奥さまの婆さん詩人と、その他、二名の詩人が、そのうちの一名の詩集を海岸の砂に埋め、弔いをしたという。なんたるおごったことをと、私は思った。あくまで私のイメージだが、書物を砂に埋めることによって、弔いをするというおごった…

「アレフ、片隅で光る非存在」

「アレフ、片隅で光る非存在」 世界がまだ睡魔と戦っていた頃、 眠りに落ちる寸前に見える光景、 それこそ人間の脳にはめ込まれた原風景であり、 全宇宙の姿と言っていい。 すべての忘却を消すために、 ハムレットはロミオと入れ替わってみようと思った。 幾…

「Oh, Ulysses! 」

「Oh, Ulysses! 」James Joyce was born in Dublin on 2 February 1882. He was the oldest of ten children in a family which, After brief prosperity, collapsed into poverty.真っ二つに裂けてしまったペーパーバックの、まだ甘い朝の空気を放つ午前、M…

【詩】「ある詩を考えながら、ほかの詩を思い出すこと」

「ある詩を考えながら、ほかの詩を思い出すこと」 Où maintenant? Quand maintenant? Qui maintenant? Sans me le demander. Dire je. Sans le penser. Appeler ça des questions, des hypothèses. Aller de l'avant, appeler ça aller, appeler ça de l'ava…

【詩】「うつらうつらしながら」

「うつらうつらしながら」 La sottise, l'erreur, le péché, la lésine, Occupent nos esprist et travaillent nos corps, 馬鹿、間違い、罪、吝嗇が、 われらの頭を占め、体を動かす と、シャルル・ボードレールは書く。 ここには、なんら観念的な言葉はな…

【詩】「ロシアより愛をこめて」

「ロシアより愛をこめて」 文学とは、まず第一に、自由の香りがしなくてはならない、けれど、 ナボコフは、軽蔑さえ宝物として記憶する、そう、 記憶だけが文学だ、彼にとって。 それから、ベンヤミン。 物語作者を探して、ロシアの地をゆく、そう、あれはロ…