現象の奥へ

【詩】「ロシアより愛をこめて」

「ロシアより愛をこめて」 文学とは、まず第一に、自由の香りがしなくてはならない、けれど、 ナボコフは、軽蔑さえ宝物として記憶する、そう、 記憶だけが文学だ、彼にとって。 それから、ベンヤミン。 物語作者を探して、ロシアの地をゆく、そう、あれはロ…

【詩】「ちょうどよいテロリスト」

「ちょうどよいテロリスト」 Facebookの魑魅魍魎をゆけば、 第一詩集として、『ちょうどよい猫』という題名の詩集を出した女性詩人あり。 「詩を書いてます。まだ駆け出しで」と。 しかし、それなりの人気を集めていた。 われははたと立ち止まり、「ちょうど…

【詩】「荒川洋治」

「荒川洋治」 「荒川洋治」なんて字を見ても、 もうなにも心は動かない。それがなにか文章の作者だとしても、その文章を読みたいとは思わない。 鎌倉時代の癩病施設に関して書かれた「詩のようなもの」は読んだ。 「詩のようなもの」というのは、本人が「詩…

【詩】「お気に召すまま」

「お気に召すまま」 お気に召すまま、泣かせてね。 ぬあんて歌ってた日々がなつかしい。 ひとりの名前はじゅん、もうひとりはねね。 ボードレールもマラルメも、さいはてたひも 知らない。ごめんねごめんね、ひまわりさん。 いまは戦車で踏み潰されて、 マル…

【詩】「ジェノサイド」

「ジェノサイド」 私が「ジェノサイド」ということばに深く印象づけられたのは、 ほかでもない、リドリー・スコットの『ブラック・フォーク・ダウン』という映画で、 東ソマリアの「内戦」に「干渉した」アメリカがよこしたデルタフォースの特殊部隊の将軍役…

【詩】「金枝篇」

「金枝篇」 それは文章を読まない、 ゆえに文学の歩みに汚されていない、 民たちの、物語。 まだ自然しかなく、伝説もない、 ギリシア悲劇でさえ近づけぬ森の。 祭司を殺してまた祭司になる、その祭司も殺されるまでは祭司である。 ターナーはそんな世界を描…

【詩】「シベリアと犬笛」

「シベリアと犬笛」 シベリアに行ったことはありますか? まあ、ないでせう。 私も行ったことはありませんが、中国映画で、「体験」しました。 いわゆる「放下」された人間が住む場所もシベリアでした。 酷寒の地なので、雪原を想像していたのですが、雪はあ…

【詩】「アサノ殿の47人、その1」

「アサノ殿の47人、その1」 大石内蔵助良雄。 家老。 千五百石。 戒名、忠誠院刃空浄剣居士、行年四五歳。 あの事件が起こらなかったら、名前を残すこともなく、田舎の城の家老で終わった。 しかし、この世には、復讐だけが人生だという、 たったひとつの復…

【詩】「きみの名前でぼくを呼んで」

「きみの名前でぼくを呼んで」 私は以前、この映画の題名で詩を書き、また同じ題名を使って詩を書こうとしている。 それほどこの言葉は、恋愛を表現して胸を打つ。 映画では、イタリア人の若者(男)とアメリカ人の留学生(男)が、 教授であった若者の父の…

【詩】「倭歌(やまとうた)」

「倭歌(やまとうた)」 和歌でなはく、倭歌とするは、和歌は本来、万葉集の「和(こた)へ歌」の意なり。 きみがよその男と寝ていようと、 蛙は水のなかで鳴く。 なんたるちーや、日本では、蛙さえ歌を詠むのだよ。 It is my love that keeps mine eye awak…

【詩】「ねじの回転」

「ねじの回転」 もちろん、ヘンリー・ジェームズのこの題名の小説は読んだ。 こんなタイトルの詩も書いたし、詩集も出した。 そして、いままた懲りもせずに、同じ題名の詩を書こうとしている。 甥や姪の家庭教師として雇われた女が、その別荘だったかの屋敷…

【詩】「もう恋なのか」

「もう恋なのか」 精神分析の本をたくさん読んで偉そうに語っていた某女性詩人のページに、 「でたらめ書かないで」とコメントしたらブロックされた。 「あ、そ」で、痛痒は感じなかったが、ある年年賀状が来た。 なんで?と思ったが、試しに彼女のページに…

【詩】「おお錯誤!」

「おお錯誤!」 文章読本は何人かの文豪によって書かれているが、なかでもりっぱな日本語の谷崎某の『文章読本』は、 同じ題名の本を書きながら、丸谷才一はそのなかで、 「腰をすゑて仔細に読み進むとき、人はこの名著に含まれてゐる錯誤に驚くことにならう…

【詩】「闇の物語」

「闇の物語」 They burn, these flares and my heart, and send off smoke. The smoke from my heart refuses to be dispersed.* 篝火にたちそふ恋(こひ)のけぶりこそ世にはたえせぬほのをなりけれ 闇、匂い、異国のひとの頭脳、 が、混じり合う。 時代、…

【詩】「ボルヘスがジョイスに祈る」

「ボルヘスがジョイスに祈る」 ボルヘスがジェームズ・ジョイスを神のように祈っている詩がある。 ジョイスによって救われたと。 Entre el alba y la noche está la historia universal. moocow(もーもーうし) なんて言葉を小説で使ったのは彼が世界で最初…

【詩】「Petites Madeleines(マドレーヌちゃん)」

「Petites Madeleines(マドレーヌちゃん)」 「もう何年も前のことであったが、コンブレーで、眠るとき、芝居でも物語でもなかったものは、 私にとってはすでに存在しない、 冬のある日、ママは私に、飲む習慣のなかった紅茶をすすめた」 "Du côté de chez …

【詩】「Dr.Strangelove__Or:How I Learned To Stop Worrying And Love The Bomb(ドクター・ストレンジラブ_あるいは、いかにして私は心配するのをやめ、爆弾を愛するようになったか」

「Dr.Strangelove__Or:How I Learned To Stop Worrying And Love The Bomb(ドクター・ストレンジラブ_あるいは、いかにして私は心配するのをやめ、爆弾を愛するようになったか」 キューブリックの最高傑作にして私のバイブルである。 なんど観ても笑ってし…

【詩】「J.L.B. v.s. J.L.G」

「J.L.B v.s. J.L.G」 かたや、暗闇にまぎれ、密かに舟を漕ぎいれ、まだ癩病が流行っていない村に足を踏み入れる。 かたや、遠い過去の未来都市で、古びたSFを物語る。 かたや、火のなかに愛を見、 かたや、夥しいテクストに放尿する。 それでも、ふたりは…

【詩】「恋人」

「恋人」 愛する、ジェイク・ギレンホールが、ちょっとハスキーな声で、 フィッツジェラルドの『華麗なるギャッツビー』を朗読しているオーディオブックを、毎夜聴いている。 いったいどんなハナシなのか?←(笑) わたしはわからないのである。 レオナルド…

【詩】「吉田健一の、その作品を愛してなければ翻訳などできない、という言葉を読んで」

「吉田健一の、その作品を愛してなければ翻訳などできない、という言葉を読んで」 たとえばオルセー美術館のような広くてりっぱな芸術空間に、 いかにも高そうな額縁の絵があれば、 絵はたとえ、子どもが描きなぐったような類いでも、 りっぱな傑作に見える…

【詩】「プーチン」

「プーチン」 KGBではトップまで行かなかった、それで印象はよくなった。 エリツィンに忠誠を尽くし、秘密警察FSBの長官になった。 周囲をチェカ、秘密警察関係者で固めた。 一九九九年、チェチェンとの「戦争」。 九月四日、二十二時、チェチェンとの国境近…

【詩】「仮面物語」

「仮面物語」 La poesía es conocimiento, salvación, poder, abandono.* ポエジーは認識、救済、力、放棄。 燃えおちたはずの、ノートルダム寺院で、捜し物をしていた、なにを? 男がやってきて、わたしも捜し物をしていると言った。 すでに燃えている場所…

【詩】「地質学的な隠喩。」

「地質学的な隠喩。」 井筒俊彦は高野山の記念日によばれて、講演をすることになった。 わたくしのような素人が、と、井筒はきりだし、そのうち、 しにふぃあんにおよんだ。 意味を超えたことばが、宇宙を包んでいるんです。 山の葉っぱのひとつひとつが声を…

【詩】「Shall I compare thee to a summer's day?」

「Shall I compare thee to a summer's day?」 ゆらぎ、ゆらいで、はかない夏の日、 こぼれ、こぼれて、おさない恋。 ありす、じゅりえっと、ろりーた、そして、 鏡のなかのあなた。 いぎりすのなつはすぐにおわって、 いま、しぇーくすぴあは、三十歳。 少…

【詩】「ヘレナ」

「ヘレナ」 絶世の美女というものがあったら、 それは、伝説、を呑み込まねばならないだろう。 その女のために戦争が起こり、 彼女を奪った王子は、トロイアのパリス。 ごめんなさい、私が思い出させるのは、 劇団『四季』の影まりえ、それから、ダイアン・…

【詩】「愛」

「愛」 濫用されることによって意味を失う事態となろうとも、 実際に愛とか死とか夢というものがなくなるわけではないと、 いうようなことを吉田健一は書いている。 われ(吉田健一は対談の時に自分のことをこう言うが、 私もならって)も、そのエッセイ集、…

【詩】「Billy Collins」

「Billy Collins」 忘れられし時の石甕の中、わが愛は眠る。 そは巫女の形をして、蜥蜴に守られぬ。 夢とうつつの間の眠る瞬間、そは赤き舌を出しぬ。 アメリカ最大の詩人、ビリー・コリンズの、 The Trouble with poetryを読みつつ一日を過ごす至福 を感謝…

【詩】「角兵衛獅子のうた」

「角兵衛獅子のうた」 きょうもきょうとて〜♪ みたいな歌詞だったか。 美空ひばりの歌う、角兵衛獅子のうた。 白黒映画で見たような気もする角兵衛獅子。 いまは死語になってしまった。 第一、児童虐待でしょ? 志賀直哉の『暗夜行路』だったか、父親に棒に…

【詩】「荻生徂徠」

「荻生徂徠」 主君の仇を討った、赤穂の浪人たちに、江戸の街の人々は喝采を送った。 このテロリストたちを無罪放免にすべきだ、という意見もあった。 浪人たちは主君の菩提寺である高輪泉岳寺に身柄を預けられていた。 浅野内匠頭を、即日切腹させたのは徳…

【詩】「adornoの『mahler』」

「adornoの『mahler』」 音楽にウルサイ、とてもウルサイ、アドルノが、マーラーについて書いている本は、 正直言って、なにが書いてあるかわからない。 ただマーラーの交響曲は、ヴィスコンティの『ベニスに死す』や、 市川崑の『四十七人の刺客』のあいだ…